りました。ギンはもうあきらめて家へかえろうともしました。
するとちょうどそこへ、夕日をうけた水の下から女の人がやっと出て来ました。見ると昨日よりも、もっともっとうつくしい人になっていました。ギンは、うれしさのあまりに口がきけなくて、だまってパン粉のこねたのをさし出しました。すると女はやっぱり顔をふって、
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「しめったパンをもった人よ、
私《あたし》はあなたのところへはいきたくはありません。」
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こう言って、やさしくほほえんだと思うと、またそれなり水の下へかくれてしまいました。ギンはしかたなしにとぼとぼお家へかえりました。
母親はその話を聞くと、
「それではかたいパンもやわらかいパンもいやだというのだから、今度は半焼《はんやき》にしたのをもっていってごらんよ。」と言いました。
その晩ギンはちっとも寝ないで、夜《よ》が明けるのをまっていました。そしてやっとのこと空があかるくなると、いそいで湖水へ出ていきました。すると、間《ま》もなく雨がふって来ました。ギンはびっしょりになったまま、また夕方まで立っていました。けれども女の人はちょっとも
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