は間《ま》もなく、髪をすいてしまって、すらすらとこちらへ歩いて来ました。ギンはだまってパンとバタをさし出しました。女はそれを見ると顔をふって、
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「かさかさのパンをもった人よ、
私《あたし》はめったに、つかまりはしませんよ。」
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と言うなり、すらりと水の下へもぐってしまいました。
ギンは、がっかりして、牛をつれてしおしおと家《うち》へかえりました。そして、母親にすべてのことを話しました。母親は女の言った言葉をいろいろに考えて、
「やっぱり、かさかさのパンではいやなのだろう。今度は焼かないパンをもってお出《い》でよ。」と、おしえました。それでギンは、そのあくる日は、パン粉《こ》の、こねたばかりで焼かないままのをもって、まだ日も出ない先に、いそいで湖水へ出かけました。
そのうちに日が山の上へ出て、だんだんに空へ上《のぼ》っていきました。ギンはそれからお午《ひる》じぶんまで、じっと岸にまっていました。しかし湖水にはただ黄色い日の光がきらきらするばかりで、昨日《きのう》の女の人はいつまでたっても出て来ませんでした。
それからとうとう夕方にな
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