、いきなり建御雷神《たけみかずちのかみ》の手をひっつかみますと、御雷神《みかずちのかみ》の手は、たちまち氷の柱になってしまいました。御名方神《みなかたのかみ》がおやとおどろいているまに、その手はまたひょいと剣《つるぎ》の刃《は》になってしまいました。
御名方神はすっかりこわくなっておずおずとしりごみをしかけますと、御雷神《みかずちのかみ》は、
「さあ、こんどはおれの番だ」と言いながら、御名方神の手くびをぐいとひっつかむが早いか、まるではえたてのあしをでも扱うように、たちまち一|握《にぎ》りに握りつぶして、ちぎれ取れた手先を、ぽうんと向こうへ投げつけました。
御名方神は、まっさおになって、いっしょうけんめいに逃《に》げだしました。御雷神《みかずちのかみ》は、
「こら待て」と言いながら、どこまでもどんどんどんどん追っかけて行きました。そしてとうとう信濃《しなの》の諏訪湖《すわこ》のそばで追いつめて、いきなり、一ひねりにひねり殺そうとしますと、建御名方神《たけみなかたのかみ》はぶるぶるふるえながら、
「もういよいよおそれいりました。どうぞ命ばかりはお助けくださいまし。私はこれなりこの信濃
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