神は、父の神に向かって、
「まことにもったいないおおせです。お言葉《ことば》のとおり、この国は大空の神さまのお子さまにおあげなさいまし」と言いながら、自分の乗って帰った船を踏《ふ》み傾《かたむ》けて、おまじないの手打ちをしますと、その船はたちまち、青いいけがきに変わってしまいました。事代主神はそのいけがきの中へ急いでからだをかくしてしまいました。
 建御雷神《たけみかずちのかみ》は大国主神に向かって、
「ただ今事代主神はあのとおりに申したが、このほかには、もうちがった意見を持っている子はいないか」とたずねました。
 大国主神は、
「私の子は事代主神のほかに、もう一人、建御名方神《たけみなかたのかみ》というものがおります。もうそれきりでございます」とお答えになりました。
 そうしているところへ、ちょうどこの建御名方神《たけみなかたのかみ》が、千人もかからねば動かせないような大きな大きな大岩を両手でさしあげて出て来まして、
「やい、おれの国へ来て、そんなひそひそ話をしているのはだれだ。さあ来い、力くらべをしよう。まずおれがおまえの手をつかんでみよう」と言いながら、大岩を投げだしてそばへ来て
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