たが、やがて、さあ今だとお思いになって、十拳《とつか》の剣《つるぎ》を引き抜《ぬ》くが早いか、おのれ、おのれと、つづけさまにお切りつけになりました。そのうちに八つの尾《お》の中の、中ほどの尾をお切りつけになりますと、その尾の中に何か固《かた》い物があって、剣の刃先《はさき》が、少しばかりほろりと欠けました。
 命《みこと》は、
「おや、変だな」とおぼしめして、そのところを切り裂《さ》いてご覧になりますと、中から、それはそれは刃の鋭い、りっぱな剣が出て来ました。命は、これはふしぎなものが手にはいったとお思いになりました。その剣はのちに天照大神《あまてらすおおかみ》へご献上《けんじょう》になりました。
 命はとうとう、大きな大きな大じゃの胴体をずたずたに切り刻《きざ》んでおしまいになりました。そして、
「足名椎《あしなずち》、手名椎《てなずち》、来て見よ。このとおりだ」とお呼《よ》びになりました。
 二人はがたがたふるえながら出て来ますと、そこいら一面は、きれぎれになった大じゃの胴体から吹き出る血でいっぱいになっておりました。その血がどんどん肥《ひ》の河《かわ》へ流れこんで、河の水もまっか
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