つけになりました。火の手は、たちまちぼうぼうと四方へ燃え広がりました。お宮じゅうの者はふいをくって大あわてにあわて騒《さわ》ぎました。
 天皇は、それでもまだ前後もなくおよっていらっしゃいました。それを阿知直《あちのあたえ》という者が、すばやくお抱《かか》え申しあげ、むりやりにうまにお乗せ申して、大和《やまと》へ向かって逃《に》げ出して行きました。
 お酔いつぶれになっていた天皇は、河内《かわち》の多遅比野《たじひの》というところまでいらしったとき、やっとおうまの上でお目ざめになり、
「ここはどこか」とおたずねになりました。阿知直《あちのあたえ》は、
「中津王《なかつのみこ》がお宮へ火をお放ちになりましたので、ひとまず大和《やまと》の方へお供《とも》をしてまいりますところでございます」とお答え申しました。
 天皇はそれをお聞きになって、はじめてびっくりなさり、
「ああ、こんな多遅比《たじひ》の野の中に寝《ね》るのだとわかっていたら、夜風《よかぜ》を防ぐたてごもなりと持って来ようものを」
と、こういう意味のお歌をお歌いになりました。
 それから埴生坂《はにうざか》という坂までおいでになり
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