て来たに相違《そうい》ない」
こうおっしゃって、さっそく、お身じたくをなさいました。女神はまず急いで髪《かみ》をといて、男まげにおゆいになり、両方のびんと両方の腕《うで》とに、八尺《やさか》の曲玉《まがたま》というりっぱな玉の飾《かざ》りをおつけになりました。そして、お背中には、五百本、千本というたいそうな矢をお負《お》いになり、右手に弓を取ってお突きたてになりながら、勢いこんで足を踏《ふ》みならして待ちかまえていらっしゃいました。そのきついお力ぶみで、お庭の堅《かた》い土が、まるで粉雪《こなゆき》のようにもうもうと飛びちりました。
二
まもなく須佐之男命《すさのおのみこと》は大空へお着きになりました。
女神はそのお姿《すがた》をご覧《らん》になると、声を張りあげて、
「命《みこと》、そちは何をしに来た」と、いきなりおしかりつけになりました。すると命は、
「いえ、私はけっして悪いことをしにまいったのではございません。おとうさまが、私の泣いているのをご覧《らん》になって、なぜ泣くかとおとがめになったので、お母上のいらっしゃるところへ行きたいからですと申しあげると、
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