やろうとお思いになって、その晩、大国主神を、へびの室《むろ》といって、大へび小へびがいっぱいたかっているきみの悪いおへやへお寝《ね》かせになりました。
 そうすると、やさしい須勢理媛《すぜりひめ》は、たいそう気の毒にお思いになりました。それでご自分の、比礼《ひれ》といって、肩《かた》かけのように使うきれを、そっと大国主神におわたしになって、
「もしへびがくいつきにまいりましたら、このきれを三度|振《ふ》って追いのけておしまいなさい」とおっしゃいました。
 まもなく、へびはみんなでかま首を立ててぞろぞろとむかって来ました。大国主神《おおくにぬしのかみ》はさっそく言われたとおりに、飾《かざ》りのきれを三度お振《ふ》りになりました。するとふしぎにも、へびはひとりでにひきかえして、そのままじっとかたまったなり、一晩じゅう、なんにも害をしませんでした。若《わか》い神はおかげで、気らくにぐっすりおよって、朝になると、あたりまえの顔をして、大神《おおかみ》の前に出ていらっしゃいました。
 すると大神は、その晩はむかでとはちのいっぱいはいっているおへやへお寝《ね》かせになりました。しかし媛《ひめ》が、またこっそりと、ほかの首飾りのきれをわたしてくだすったので、大国主神は、その晩もそれでむかでやはちを追いはらって、また一晩じゅうらくらくとおやすみになりました。
 大神は、大国主神がふた晩とも、平気で切りぬけてきたので、よし、それではこんどこそは見ておれと、心の中でおっしゃりながら、かぶら矢《や》と言って、矢じりに穴《あな》があいていて、射《い》るとびゅんびゅんと鳴る、こわい大きな矢を、草のぼうぼうとはえのびた、広い野原のまん中にお射こみになりました。そして、大国主神に向かって、
「さあ、今飛んだ矢を拾って来い」とおおせつけになりました。
 若い神は、正直《しょうじき》にご命令を聞いて、すぐに草をかき分けてどんどんはいっておいでになりました。大神はそれを見すまして、ふいに、その野のまわりへぐるりと火をつけて、どんどんお焼きたてになりました。大国主神は、おやと思うまに、たちまち四方から火の手におかこまれになって、すっかり遁げ場を失っておしまいになりました。それで、どうしたらいいかとびっくりして、とまどいをしていらっしゃいますと、そこへ一ぴきのねずみが出て来まして、
「うちはほらほら、そとはすぶすぶ」と言いました。それは、中は、がらんどうで、外はすぼまっている、という意味でした。
 若い神は、すぐそのわけをおさとりになって、足の下を、とんときつく踏《ふ》んでごらんになりますと、そこは、ちゃんと下が大きな穴になっていたので、からだごとすっぽりとその中へ落ちこみました。それで、じっとそのままこごまって隠れていらっしゃいますと、やがてま近まで燃えて来た火の手は、その穴の上を走って、向こうへ遠のいてしまいました。
 そのうちに、さっきのねずみが大神のお射になったかぶら矢をちゃんとさがし出して、口にくわえて持って来てくれました。見るとその矢の羽根のところは、いつのまにかねずみの子供たちがかじってすっかり食べてしまっておりました。

       三

 須勢理媛《すぜりひめ》は、そんなことはちっともご存じないものですから、美しい若い神は、きっと焼け死んだものとお思いになって、ひとりで嘆《なげ》き悲しんでいらっしゃいました。そして火が消えるとすぐに、急いでお弔《とむら》いの道具を持って、泣《な》き泣《な》きさがしにいらっしゃいました。
 お父上の大神も、こんどこそはだいじょうぶ死んだろうとお思いになって、媛のあとからいらしってごらんになりました。
 すると大国主神《おおくにぬしのかみ》は、もとのお姿《すがた》のままで、焼けあとのなかから出ていらっしゃいました。そしてさっきのかぶら矢をちゃんとお手におわたしになりました。
 大神《おおかみ》もこれには内々《ないない》びっくりしておしまいになりまして、しかたなくいっしょに御殿《ごてん》へおかえりになりました。そして大きな広間へつれておはいりになって、そこへごろりと横におなりになったと思うと、
「おい、おれの頭のしらみを取れ」と、いきなりおっしゃいました。
 大国主神はかしこまって、その長い長いお髪《ぐし》の毛をかき分けてご覧になりますと、その中には、しらみでなくて、たくさんなむかでが、うようよたかっておりました。
 すると、須勢理媛《すぜりひめ》がそばへ来て、こっそりとむくの実と赤土とをわたしてお行きになりました。
 大国主神は、そのむくの実を一粒《ひとつぶ》ずつかみくだき、赤土を少しずつかみとかしては、いっしょにぷいぷいお吐《は》き出しになりました。大神はそれをご覧になると、
「ほほう、むかでをいちいちかみつぶして
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