ひめ》をご自分のものになさることはできません。あなたは袋《ふくろ》などをおしょいになって、お供《とも》についていらっしゃいますけれど、八上媛はきっと、あなたのお嫁《よめ》さまになると申します。みていてごらんなさいまし」と申しました。
まもなく、八十神たちは八上媛のところへ着きました。そして、代わる代わる、自分のお嫁になれなれと言いましたが、媛《ひめ》はそれをいちいちはねつけて、
「いえいえ、いくらお言いになりましても、あなたがたのご自由にはなりません。私は、あそこにいらっしゃる大国主神のお嫁にしていただくのです」と申しました。
八十神たちはそれを聞くとたいそう怒《おこ》って、みんなで大国主神を殺してしまおうという相談をきめました。
みんなは、大国主神を、伯耆《ほうき》の国の手間《てま》の山という山の下へつれて行って、
「この山には赤いいのししがいる。これからわしたちが山の上からそのいのししを追いおろすから、おまえは下にいてつかまえろ。へたをして遁《に》がしたらおまえを殺してしまうぞ」と、言いわたしました。そして急いで、山の上へかけあがって、さかんにたき火をこしらえて、その火の中で、いのししのようなかっこうをしている大きな石をまっかに焼いて、
「そうら、つかまえろ」と言いながら、どしんと、転《ころ》がし落としました。
ふもとで待ち受けていらしった大国主神は、それをご覧になるなり、大急ぎでかけ寄って、力まかせにお組みつきになったと思いますと、からだはたちまちそのあか焼けの石の膚《はだ》にこびりついて、
「あッ」とお言いになったきり、そのままただれ死にに死んでおしまいになりました。
二
大国主神の生みのおかあさまは、それをお聞きになると、たいそうお嘆《なげ》きになって、泣《な》き泣き大空へかけのぼって、高天原《たかまのはら》においでになる、高皇産霊神《たかみむすびのかみ》にお助けをお願いになりました。
すると、高皇産霊神《たかみむすびのかみ》は、蚶貝媛《きさがいひめ》、蛤貝媛《うむがいひめ》と名のついた、あかがいとはまぐりの二人の貝を、すぐに下界へおくだしになりました。
二人は大急ぎでおりて見ますと、大国主神《おおくにぬしのかみ》はまっくろこげになって、山のすそに倒《たお》れていらっしゃいました。あかがいはさっそく自分のからを削《けず》って、それを焼いて黒い粉をこしらえました。はまぐりは急いで水を出して、その黒い粉をこねて、おちちのようにどろどろにして、二人で大国主神のからだじゅうへ塗《ぬ》りつけました。
そうすると大国主神は、それほどの大やけどもたちまちなおって、もとのとおりの、きれいな若い神になってお起きあがりになりました。そしてどんどん歩いてお家《うち》へ帰っていらっしゃいました。
八十神《やそがみ》たちは、それを見ると、びっくりして、もう一度みんなでひそひそ相談をはじめました。そしてまたじょうずに大国主神をだまして、こんどは別の山の中へつれこみました。そしてみんなで寄ってたかって、ある大きなたち木を根もとから切りまげて、その切れ目へくさびをうちこんで、その間へ大国主神をはいらせました。そうしておいて、ふいにポンとくさびを打ちはなして、はさみ殺しに殺してしまいました。
大国主神のおかあさまは、若い子の神がまたいなくなったので、おどろいて方々さがしておまわりになりました。そして、しまいにまた殺されていらっしゃるところをおみつけになると、大急ぎで木の幹を切り開いて、子の神のお死がいをお引き出しになりました。そしていっしょうけんめいに介抱《かいほう》して、ようようのことで再びお生きかえらせになりました。おかあさまは、
「もうおまえはうかうかこの土地においてはおかれない。どうぞこれからすぐに、須佐之男命《すさのおのみこと》のおいでになる、根堅国《ねのかたすくに》へ遁《に》げておくれ、そうすれば命《みこと》が必ずいいようにはからってくださるから」
こう言って、若《わか》い子の神を、そのままそちらへ立ってお行かせになりました。
大国主神は、言われたとおりに、命のおいでになるところへお着きになりました。すると、命のお娘《むすめ》ごの須勢理媛《すぜりひめ》がお取次をなすって、
「お父上さま、きれいな神がいらっしゃいました」とお言いになりました。
お父上の大神《おおかみ》は、それをお聞きになると、急いでご自分で出てご覧になって、
「ああ、あれは、大国主という神だ」とおっしゃいました。そして、さっそくお呼《よ》びいれになりました。
媛《ひめ》は大国主神のことをほんとに美しいよい方だとすぐに大すきにお思いになりました。大神には、第一それがお気にめしませんでした。それで、ひとつこの若い神を困《こま》らせて
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