「私の兄の兄宇迦斯《えうかし》は、あなたさまを攻《せ》め亡《ほろ》ぼそうとたくらみまして、兵を集めにかかりましたが、思うように集まらないものですから、とうとう御殿の中につり天じょうをこしらえて待ち受けております。それで急いでおしらせ申しにあがりました」と申しました。そこで道臣命《みちおみのみこと》と大久米命《おおくめのみこと》の二人の大将が、兄宇迦斯《えうかし》を呼《よ》びよせて、
「こりゃ兄宇迦斯《えうかし》、おのれの作った御殿にはおのれがまずはいって、こちらの命《みこと》をおもてなしする、そのもてなしのしかたを見せろ」とどなりつけながら、太刀《たち》のえをつかみ、矢をつがえて、無理やりにその御殿の中へ追いこみました。兄宇迦斯《えうかし》は追いまくられて逃げこむはずみに、自分のしかけたつり天じょうがどしんと落ちて、たちまち押《お》し殺されてしまいました。
二人の大将は、その死がいを引き出して、ずたずたに切り刻《きざ》んで投げ捨《す》てました。
命は弟宇迦斯《おとうかし》が献上《けんじょう》したごちそうを、けらい一同におくだしになって、お祝いの大|宴会《えんかい》をお開きになりました。命はそのとき、
「宇陀《うだ》の城《しろ》にしぎなわをかけて待っていたら、しぎはかからないで大くじらがかかり、わなはめちゃめちゃにこわれた。ははは、おかしや」という意味を、歌にお歌いになって、兄宇迦斯《えうかし》のはかりごとの破れたことを、喜びお笑《わら》いになりました。
それからまたその宇陀《うだ》をおたちになって、忍坂《おさか》というところにお着きになりますと、そこには八十建《やそたける》といって、穴《あな》の中に住んでいる、しっぽのはえた、おおぜいの荒《あら》くれた悪者どもが、命《みこと》の軍勢を討《う》ち破ろうとして、大きな岩屋の中に待ち受けておりました。
命はごちそうをして、その悪者たちをお呼びになりました。そして前もって、相手の一人に一人ずつ、お給仕につくものをきめておき、その一人一人に太刀《たち》を隠《かく》しもたせて、合い図の歌を聞いたら一度に切ってかかれと言い含《ふく》めておおきになりました。
みんなは、命が、
「さあ、今だ、うて」とお歌いになると、たちまち一度に太刀を抜《ぬ》き放って、建《たける》どもをひとり残さず切り殺してしまいました。
しかし命は、そ
前へ
次へ
全121ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング