ねたんで殺しにおいでになるに相違ございません。そのときには、この満潮《みちしお》の玉を取り出して、おぼらしておあげなさい。この中から水がいくらでもわいて出ます。しかし、おあにいさまが助けてくれとおっしゃられておわびをなさるなら、こちらのこの干潮《ひしお》の玉を出して、水をひかせておあげなさいまし。ともかく、そうして少しこらしめておあげになるがようございます」
 こう言って、そのたいせつな二つの玉を命《みこと》にさしあげました。それからけらいのわにをすっかり呼《よ》び集めて、
「これから大空の神のお子さまが陸の世界へお帰りになるのだが、おまえたちはいく日あったら命をお送りして帰ってくるか」と聞きました。
 わにたちは、お互いにからだの大きさにつれてそれぞれかんじょうして、めいめいにお返事をしました。その中で六|尺《しゃく》ばかりある大わには、
「私は一日あれば行ってまいります」と言いました。海の神は、
「それではおまえお送り申してくれ。しかし海を渡るときに、けっしてこわい思いをおさせ申してはならないぞ」とよく言い聞かせた上、その首のところへ命をお乗せ申して、はるばるとお送り申して行かせました。すると、わにはうけあったとおりに、一日のうちに命をもとの浜までおつれ申しました。
 命はご自分のつるしておいでになる小さな刀をおほどきになって、それをごほうびにわにの首へくくりつけておかえしになりました。
 命はそれからすぐに、おあにいさまのところへいらしって、海の神が教えてくれたとおりに、

  いやなつり針《ばり》、
  悪いつり針、
  ばかなつり針。

と言い言い、例のつり針を、うしろ向きになってお返しになりました。それから田を作るにも海の神が言ったとおりになさいました。
 そうすると、命の田からは、毎年どんどんおこめが取れるのに、おあにいさまの田には、水がちっとも来ないものですから、おあにいさまは、三年の間にすっかり貧乏《びんぼう》になっておしまいになりました。
 するとおあにいさまは、あんのじょう、命のことをねたんで、いくどとなく殺しにおいでになりました。命はそのときにはさっそく満潮《みちしお》の玉を出して、大水をわかせてお防ぎになりました。おあにいさまは、たんびにおぼれそうになって、助けてくれ、助けてくれ、とおっしゃいました。命はそのときには干潮《ひしお》の玉を出し
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