浮橋《あめのうきはし》をもおし渡《わた》って、どうどうと下界に向かってくだっておいでになりました。そのまっさきには、天忍日命《あめのおしひのみこと》と、天津久米命《あまつくめのみこと》という、よりすぐった二人の強い神さまが、大きな剣《つるぎ》をつるし、大きな弓と強い矢とを負《お》い抱《かか》えて、勇ましくお先払いをして行きました。
命たちはしまいに、日向《ひゅうが》の国の高千穂《たかちほ》の山の、串触嶽《くしふるだけ》という険《けわ》しい峰の上にお着きになりました。そしてさらに韓国嶽《からくにだけ》という峰へおわたりになり、そこからだんだんと、ひら地へおくだりになって、お住まいをお定めになる場所を探し探し、海の方へ向かって出ておいでになりました。
そのうちに同じ日向《ひゅうが》の笠沙《かささ》の岬《みさき》へお着きになりました。
邇邇芸命《ににぎのみこと》は、
「ここは朝日もま向きに射《さ》し、夕日もよく照って、じつにすがすがしいよいところだ」とおっしゃって、すっかりお気にめしました。それでとうとう最後にそこへお住まいになることにおきめになりました。そしてさっそく、地面のしっかりしたところへ、大きな広い御殿《ごてん》をおたてになりました。
命《みこと》は、それから例の宇受女命《うずめのみこと》をお召《め》しになって、
「そちは、われわれの道案内をしてくれた、あの猿田彦神《さるたひこのかみ》とは、さいしょからの知り合いである。それでそちがつき添って、あの神が帰るところまで送って行っておくれ。それから、あの神のてがらを記念してやる印に、猿田彦《さるたひこ》という名まえをおまえが継《つ》いで、あの神と二人のつもりで私《わたし》に仕えよ」とおっしゃいました。宇受女命《うずめのみこと》はかしこまって、猿田彦神を送ってまいりました。
猿田彦神は、その後、伊勢《いせ》の阿坂《あざか》というところに住んでいましたが、あるときりょうに出て、ひらふがいという大きな貝に手をはさまれ、とうとうそれなり海の中へ引き入れられて、おぼれ死にに死んでしまいました。
宇受女命《うずめのみこと》はその神を送り届《とど》けて帰って来ますと、笠沙《かささ》の海ばたへ、大小さまざまの魚《さかな》をすっかり追い集めて、
「おまえたちは大空の神のお子さまにお仕え申すか」と聞きました。そうすると、どの
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