いるな。これは感心なやつだ」とお思いになりながら、安心して、すやすやと寝いっておしまいになりました。
 大国主神は、この上ここにぐずぐずしていると、まだまだどんなめに会うかわからないとお思いになって、命《みこと》がちょうどぐうぐうおやすみになっているのをさいわいに、その長いお髪《ぐし》をいく束《たば》にも分けて、それを四方のたる木というたる木へ一束ずつ縛《しば》りつけておいたうえ、五百人もかからねば動かせないような、大きな大きな大岩を、そっと戸口に立てかけて、中から出られないようにしておいて、大神《おおかみ》の太刀《たち》と弓矢《ゆみや》と、玉の飾りのついた貴《とうと》い琴《こと》とをひっ抱《かか》えるなり、急いで須勢理媛《すぜりひめ》を背なかにおぶって、そっと御殿をお逃《に》げ出しになりました。
 するとまの悪いことに、抱えていらっしゃる琴が、樹《き》の幹にぶつかって、じゃらじゃらじゃらんとたいそうなひびきを立てて鳴りました。
 大神はその音におどろいて、むっくりとお立ちあがりになりました。すると、おぐしがたる木じゅうへ縛りつけてあったのですから、大力《おおぢから》のある大神がふいにお立ちになるといっしょに、そのおへやはいきなりめりめりと倒《たお》れつぶれてしまいました。
 大神は、
「おのれ、あの小僧《こぞう》ッ神め」と、それはそれはお怒《いか》りになって、髪《かみ》の毛をひと束ずつ、もどかしく解きはなしていらっしゃるまに、こちらの大国主神はいっしょうけんめいにかけつづけて、すばやく遠くまで逃げのびていらっしゃいました。
 すると大神は、まもなくそのあとを追っかけて、とうとう黄泉比良坂《よもつひらざか》という坂の上までかけつけていらっしゃいました。そしてそこから、はるかに大国主神を呼びかけて、大声をしぼってこうおっしゃいました。
「おおいおおい、小僧ッ神。その太刀と弓矢をもって、そちのきょうだいの八十神《やそがみ》どもを、山の下、川の中と、逃げるところへ追いつめ切り払《はら》い、そちが国の神の頭《かしら》になって、宇迦《うか》の山のふもとに御殿を立てて住め。わしのその娘《むすめ》はおまえのお嫁《よめ》にくれてやる。わかったか」とおどなりになりました。
 大国主神《おおくにぬしのかみ》はおおせのとおりに、改めていただいた、大神《おおかみ》の太刀《たち》と弓矢《ゆみ
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