はすぶすぶ」と言いました。それは、中は、がらんどうで、外はすぼまっている、という意味でした。
 若い神は、すぐそのわけをおさとりになって、足の下を、とんときつく踏《ふ》んでごらんになりますと、そこは、ちゃんと下が大きな穴になっていたので、からだごとすっぽりとその中へ落ちこみました。それで、じっとそのままこごまって隠れていらっしゃいますと、やがてま近まで燃えて来た火の手は、その穴の上を走って、向こうへ遠のいてしまいました。
 そのうちに、さっきのねずみが大神のお射になったかぶら矢をちゃんとさがし出して、口にくわえて持って来てくれました。見るとその矢の羽根のところは、いつのまにかねずみの子供たちがかじってすっかり食べてしまっておりました。

       三

 須勢理媛《すぜりひめ》は、そんなことはちっともご存じないものですから、美しい若い神は、きっと焼け死んだものとお思いになって、ひとりで嘆《なげ》き悲しんでいらっしゃいました。そして火が消えるとすぐに、急いでお弔《とむら》いの道具を持って、泣《な》き泣《な》きさがしにいらっしゃいました。
 お父上の大神も、こんどこそはだいじょうぶ死んだろうとお思いになって、媛のあとからいらしってごらんになりました。
 すると大国主神《おおくにぬしのかみ》は、もとのお姿《すがた》のままで、焼けあとのなかから出ていらっしゃいました。そしてさっきのかぶら矢をちゃんとお手におわたしになりました。
 大神《おおかみ》もこれには内々《ないない》びっくりしておしまいになりまして、しかたなくいっしょに御殿《ごてん》へおかえりになりました。そして大きな広間へつれておはいりになって、そこへごろりと横におなりになったと思うと、
「おい、おれの頭のしらみを取れ」と、いきなりおっしゃいました。
 大国主神はかしこまって、その長い長いお髪《ぐし》の毛をかき分けてご覧になりますと、その中には、しらみでなくて、たくさんなむかでが、うようよたかっておりました。
 すると、須勢理媛《すぜりひめ》がそばへ来て、こっそりとむくの実と赤土とをわたしてお行きになりました。
 大国主神は、そのむくの実を一粒《ひとつぶ》ずつかみくだき、赤土を少しずつかみとかしては、いっしょにぷいぷいお吐《は》き出しになりました。大神はそれをご覧になると、
「ほほう、むかでをいちいちかみつぶして
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