「それでは、そちが仕えているあの中津王《なかつのみこ》を殺してまいれ」とお言いつけになりました。曾婆加里《そばかり》は、
「かしこまりました」と、ぞうさもなくおひき受けして飛んでかえり、王《みこ》がかわやにおはいりになろうとするところを待ち受けて、一刺《ひとさ》しに刺《さ》し殺してしまいました。
水歯別王《みずはわけのみこ》は、曾婆加里《そばかり》とごいっしょに、すぐに大和《やまと》へ向かってお立ちになりました。その途中、例の大坂《おおさか》の山の下までおいでになったとき、命《みこと》はつくづくお考えになりました。
「この曾婆加里《そばかり》めは、私《わし》のためには大きな手柄《てがら》を立てたやつではあるが、かれ一人からいえば、主人を殺した大悪人である。こんなやつをこのままおくと、さきざきどんな怖《おそ》ろしいことをしだすかわからない。今のうちに手早くかたづけてしまってやろう。しかし、手柄《てがら》だけはどこまでも賞《ほ》めておいてやらないと、これから後、人が私《わし》を信じてくれなくなる」
こうお思いになって急にその手だてをお考えさだめになりました。それで曾婆加里《そばかり》に向かって、
「今晩《こんばん》はこの村へとまることにしよう。そしてそちに大臣の位をさずけたうえ、あすあちらへおうかがいをしよう」とおっしゃって、にわかにそこへ仮のお宮をおつくりになりました。そしてさかんなご宴会《えんかい》をお開きになって、そのお席で曾婆加里《そばかり》を大臣の位におつけになり、すべての役人たちに言いつけて礼拝をおさせになりました。
曾婆加里《そばかり》はこれでいよいよ思いがかなったと言って大得意《だいとくい》になって喜びました。水歯別王《みずはわけのみこ》は、
「それでは改めて、大臣のおまえと同じさかずきで飲み合おう」とおっしゃりながら、わざと人の顔よりも大きなさかずきへなみなみとおつがせになりました。そして、まずご自分で一口めしあがった後、曾婆加里《そばかり》におくだしになりました。曾婆加里《そばかり》はそれをいただいて、がぶがぶと飲みはじめました。
王《みこ》は曾婆加里《そばかり》の目顔《めがお》がそのさかずきで隠《かく》れるといっしょに、かねてむしろの下にかくしておおきになった剣《つるぎ》を抜《ぬ》き放して、あッというまに曾婆加里《そばかり》の首を切り落と
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