なさいました。機織女《はたおりおんな》は、びっくりして遁《に》げ惑《まど》うはずみに、梭《ひ》で下腹《したはら》を突《つ》いて死んでしまいました。
 女神は、命のあまりの乱暴さにとうとういたたまれなくおなりになって、天《あめ》の岩屋《いわや》という石室《いしむろ》の中へお隠《かく》れになりました。そして入口の岩の戸をぴっしりとおしめになったきり、そのままひきこもっていらっしゃいました。
 すると女神は日の神さまでいらっしゃるので、そのお方がお姿《すがた》をお隠《かく》しになるといっしょに、高天原《たかまのはら》も下界の地の上も、一度にみんなまっ暗《くら》がりになって、それこそ、昼と夜との区別もない、長い長いやみの世界になってしまいました。
 そうすると、いろいろの悪い神たちが、その暗がりにつけこんで、わいわいとさわぎだしました。そのために、世界じゅうにはありとあらゆる禍《わざわい》が、一度にわきあがって来ました。
 そんなわけで、大空の神々たちは、たいそうお困《こま》りになりまして、みんなで安河原《やすのかわら》という、空の上の河原《かわら》に集まって、どうかして、天照大神に岩屋からお出ましになっていただく方法はあるまいかといっしょうけんめいに、相談をなさいました。
 そうすると、思金神《おもいかねのかみ》という、いちばんかしこい神さまが、いいことをお考えつきになりました。
 みんなはその神のさしずで、さっそく、にわとりをどっさり集めて来て、岩屋の前で、ひっきりなしに鳴かせました。
 それから一方では、安河《やすのかわ》の河上から固《かた》い岩をはこんで来て、それを鉄床《かなどこ》にして、八咫《やた》の鏡《かがみ》というりっぱな鏡を作らせ、八尺《やさか》の曲玉《まがたま》というりっぱな玉で胸飾《むなかざ》りを作らせました。そして、天香具山《あめのかぐやま》という山からさかきを根|抜《ぬ》きにして来て、その上の方の枝《えだ》へ、八尺《やさか》の曲玉《まがたま》をつけ、中ほどの枝へ八咫《やた》の鏡《かがみ》をかけ、下の枝へは、白や青のきれをつりさげました。そしてある一人の神さまが、そのさかきを持って天の岩屋に立ち、ほかの一人の神さまが、そのそばでのりとをあげました。
 それからやはり岩屋の前へ、あきだるを伏《ふ》せて、天宇受女命《あめのうずめのみこと》という女神に、天香
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