それをがりがりかんで霧をお吹き出しになりますと、それといっしょに一人の男の神さまがお生まれになりました。その神さまが、天忍穂耳命《あめのおしほみみのみこと》です。
それからつぎには、女神の右のびんの玉飾《たまかざ》りをお取りになって、先《せん》と同じようにして息をお吹きになりますと、その中からまた男の神が一人お生まれになりました。
つづいてこんどは、おかずらの玉飾りを受け取って、やはり真名井《まない》で洗って、がりがりかんで息をお吹きになりますと、その中から、また男の神が一人お生まれになり、いちばんしまいに、女神の右と左のお腕《うで》の玉飾りをかんで、息をお吹きになりますと、そのたんびに、同じ男神が一人ずつ――これですべてで五人の男神がお生まれになりました。
天照大神《あまてらすおおかみ》は、
「はじめに生まれた三人の女神は、おまえの剣《つるぎ》からできたのだから、おまえの子だ。あとの五人の男神は私《わたし》の玉飾りからできたのだから、私の子だ」とおっしゃいました。
命は、
「そうら、私が勝った。私になんの悪心《あくしん》もない印《しるし》には、私の子は、みんなおとなしい女神ではありませんか。どうです、それでも私は悪人ですか」と、それはそれは大いばりにおいばりになりました。そして、その勢いに乗ってお暴《あば》れだしになって、女神がお作らせになっている田の畔《あぜ》をこわしたり、みぞを埋《う》めたり、しまいには女神がお初穂《はつほ》を召《め》しあがる御殿《ごてん》へ、うんこをひりちらすというような、ひどい乱暴《らんぼう》をなさいました。
ほかの神々は、それを見てあきれてしまって、女神に言いつけにまいりました。
しかし女神はちっともお怒《おこ》りにならないで、
「何、ほっておけ。けっして悪い気でするのではない。きたないものは、酔《よ》ったまぎれに吐《は》いたのであろう。畔《あぜ》やみぞをこわしたのは、せっかくの地面を、そんなみぞなぞにしておくのが惜《お》しいからであろう」
こうおっしゃって、かえって命《みこと》をかばっておあげになりました。
すると命は、ますます図《ず》に乗って、しまいには、女たちが女神のお召物《めしもの》を織っている、機織場《はたおりば》の屋根を破って、その穴《あな》から、ぶちのうまの皮をはいで、血まぶれにしたのを、どしんと投げこんだり
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