ちそうをそろえて呼《よ》んでやろう、しかし、もしもらいそこねたら、あんな広言《こうげん》を吐《は》いた罰《ばつ》に、今わしがしてやろうと言ったとおりをわしにしてくれるか」と言いました。
 弟の神は、おお、よろしい、それではかけをしようと誓《ちか》いました。そして、おうちへ帰って、そのことをおかあさまにお話しますと、おかあさまの女神は、一晩《ひとばん》のうちに、ふじのつるで、着物からはかまから、くつからくつ下まで織ったり、こしらえたりした上に、やはり同じふじのつるで弓《ゆみ》をこしらえてくれました。
 弟の神はその着物やくつをすっかり身につけて、その弓矢《ゆみや》を持って、例の女神のおうちへ出かけて行きました。すると、たちまち、その着物やくつや弓矢にまで、残らず、一度にぱっとふじの花が咲《さ》きそろいました。
 弟の神はその弓矢を便所のところへかけておきますと、女神はそれを見つけて、ふしぎに思いながら取りはずして持って行きました。弟の神は、すかさず、そのあとについて女神のへやにはいって、どうぞ私《わたし》のお嫁になってくださいと言いました。そして、とうとうその女神をもらってしまいました。
 二人の間には一人子供までできました。
 弟の神は、それで兄の神に向かって、
「私《わたし》はあのとおり、ちゃんと女神《めがみ》をもらいました。だから約束のとおり、あなたの着物をください。それからごちそうもどっさりしてください」と言いました。すると兄の神は、弟の神のことをたいそうねたんで、てんで着物もやらないし、ごちそうもしませんでした。
 弟の神は、そのことを母上の女神に言いつけました。すると女神は、兄の神を呼《よ》んで、
「おまえはなぜそんなに人をだますのです。この世の中に住んでいる間は、すべてりっぱな神々のなさるとおりをしなければいけません。おまえのように、いやしい人間のまねをする者はそのままにしてはおかれない」と、ひどく怒《おこ》りつけました。それから、そこいらの川の中の島にはえているたけを伐《き》って来て、それで目の荒《あら》いあらかごを作り、その中へ、川の石に塩をふりかけて、それをたけの葉につつんだのを入れて、
「この兄の神のようなうそつきは、このたけの葉がしおれるようにしおれてしまえ。この塩がひるようにひからびてしまえ。そして、この石が沈《しず》むように沈み倒《たお》れ
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