て討《う》ち亡《ほろ》ぼそうとおぼしめして、にわかに兵を集めて、摂津《せっつ》の斗賀野《とがの》というところまでご進軍になりました。
 皇子たちは、その野原でためしに猟《りょう》をして、その獲物《えもの》によって、さいさきを占《うらな》ってみようとなさいました。
 香坂皇子《かごさかのおうじ》は、くぬぎの木に上って、その猟の有様《ありさま》を見ていらっしゃいました。すると、ふいにそこへ、手傷《てきず》を負《お》った大きないのししがあらわれて、そのくぬぎの木の根もとをどんどん掘《ほ》りにかかりました。そしてまもなくすとんと掘り倒《たお》したと思いますと、いきなり香坂皇子《かごさかのおうじ》に飛びかかって、がつがつ皇子を食べてしまいました。
 しかし、弟さまの忍熊皇子《おしくまのおうじ》は、そんな悪い前兆《ぜんちょう》にもとんじゃくなしに、そのまま軍勢をおひきつれになり、海ばたまで押しかけて、待ちかまえていらっしゃいました。
 そのうちに、皇后がたのお船が見えて来ました。忍熊王《おしくまのみこ》は、その中の喪船《もふね》には、兵たいたちが乗っていないはずなので、まずまっ先にその船を目がけてお討《う》ちかからせになりました。
 ところがその船の中には、前もってちゃんとよりすぐりの兵が忍《しの》ばせてありました。その兵士たちは船がつくなり、ふいに、うわッと飛び下りて、たちまち、はげしい戦《いくさ》をはじめました。
 そのとき忍熊王《おしくまのみこ》の軍勢《ぐんぜい》には、伊佐比宿禰《いさひのすくね》というものが総大将《そうたいしょう》になっていました。それに対して皇后方からは建振熊命《たけふるくまのみこと》という強い人が将軍となって攻《せ》めかけました。
 建振熊命《たけふるくまのみこと》は見る見るうちに宿禰《すくね》の軍勢を負かし崩《くず》して、ぐんぐんと、どこまでも追っかけて行きました。すると敵は山城《やましろ》でふみ止《とど》まって、頑固《がんこ》に防《ふせ》ぎ戦《いくさ》をしだしました。
 建振熊命《たけふるくまのみこと》は、何をと言いながら、死にもの狂《ぐる》いで攻めかけ攻めかけしました。しかし、どんなにあせっても敵はそれなりひと足も退《ひ》こうとはしませんでした。
 建振熊命《たけふるくまのみこと》は、しまいには、これでは果《は》てしがないと思い直して、急に味方
前へ 次へ
全121ページ中76ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング