二
命は、その土地にお着きになり、熊襲建《くまそたける》のうちへ近づいて、ようすをおうかがいになりますと、建《たける》らは、うちのまわりへ軍勢をぐるりと三|重《じゅう》に立て囲《かこ》わせて、その中に住まっておりました。そして、たまたまちょうどその家ができあがったばかりで、近々にそのお祝いの宴会《えんかい》をするというので、大さわぎでしたくをしているところでした。
命《みこと》はそのあたりをぶらぶら歩きまわって、その宴会《えんかい》の日が来るのを待ちかまえていらっしゃいました。そして、いよいよその日になりますと、今までお結《ゆ》いになっていたお髪《ぐし》を、少女のようにすきさげになさり、おんおば上からおさずかりになったご衣裳《いしょう》を召《め》して、すっかり小女《こおんな》の姿《すがた》におなりになりました。そして、ほかの女たちの中にまじって、建《たける》どもの宴会《えんかい》のへやへはいっておいでになりました。
すると熊襲建《くまそたける》きょうだいは、命をほんとうの女だとばかり思いこんでしまいまして、その姿のきれいなのがたいそう気にいったので、とくに自分たち二人の間にすわらせて、大喜びで飲みさわぎました。
命は、みんながすっかり興《きょう》に入ったころを見はからって、そっと懐《ふところ》から剣《つるぎ》をお取り出しになったと思いますと、いきなり片手で兄の建《たける》のえり首をつかんで、胸《むね》のところをひと突《つ》きに突き通しておしまいになりました。
弟の建《たける》はそれを見ると、あわててへやの外へ逃げ出そうとしました。
命《みこと》は、それをもすかさず、階段《かいだん》の下に追いつめて、手早く背中《せなか》をひっつかみ、ずぶりとおしりをお突き刺《さ》しになりました。
建《たける》はそれなりじたばたしようともしないで、
「どうぞその刀をしばらく動かさないでくださいまし。一言《ひとこと》申しあげたいことがございます」と、言いました。それで命《みこと》は刀をお刺《さ》しになったなり、しばらく押《お》し伏《ふ》せたままにしていらっしゃいますと、建《たける》は、
「いったいあなたはどなたでございます」と聞きました。
「おれは、大和《やまと》の日代《ひしろ》の宮《みや》に天下《てんか》を治めておいでになる、大帯日子天皇《おおたらしひ
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