ゆうくつでした。しかし兵たいは、どうなりと勝手になれと、もう度胸をすゑて、鉄砲の台をかたくにぎつたなり、からだをつきのばして、ふんぞりかへつて寝ころんでゐました。
 魚は兵たいを飲みこんだまゝ、そつちこつちと、いきほひよくはねまはりました。


    三

 兵たいはどれだけの間さうして寝ころんでゐたでせう。しまひに、上からばたんとなぐりつけるやうなひゞきがつたはりました。間もなく、いなびかりのやうに、目の前がぱつと明るくなりました。それと一しよに、だれか女の人の声で、
「あら、こんな兵たいがはいつてゐた。」と、さもめづらしさうにさわぎたてました。それは或家《あるうち》の女の料理人でした。
 魚はいつのまにか漁師のあみにかゝり、市場へ売られて、しまひにこの家《うち》の台所へ来たのです。女の料理人は、笑ひながら、その一本足の兵たいを、おや指と人さし指でつまんで、ほかのお部屋へもつていきました。みんなは、わい/\言ひながら、そのめづらしいほり出しものを見に来ました。一本足の兵たいは、きまりの悪い顔をして、されるまゝになつてゐました。
 そのうちに、だれかゞその兵隊をテイブルの上へおきまし
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