た。兵隊はそつとあたりを見まはしました。
すると、ふしぎなこともあればあるものです。そのテイブルはこの一本足の兵たいが先にのつかつてゐた、あの同じテイブルではありませんか。
むろん、部屋も同じ部屋でした。それから同じ坊ちやんがそばにゐました。そしてテイブルの上には、先《せん》と同じ仲間が、ちやんとそのまゝそろつてゐました。踊《をどり》の女の人はやつぱり同じやうに入口の石段の上に立つて、両手をたかくさしあげて、一本足で踊つてゐました。
一本足の兵たいは、うれしくて/\、思はず錫《すず》の涙がこぼれさうになりました。でも兵たいですから、涙なんぞを見せるわけにはいきません。一本足の兵たいは、だまつて、ぢいつと踊子《をどりこ》の顔を見てゐました。踊の女は何にも言はないで、だまつてこちらを見てゐました。
そのうちに坊ちやんが、ふいにその兵たいをつかんで、いきなりストーヴの中へなげこんでしまひました。兵たいは、
「あつ。」とびつくりしました。これもやはりあの黒い鬼のさせたことにちがひありません。兵たいはだまつてぢつとしてゐました。
でも赤焼けになつた石炭の中へなげこまれたのですから、たち
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