たいは、だまつて鉄砲の台をにぎつてゐました。ボウトは、かまはずどん/\走つていきます。鼠《ねずみ》は怒つて追つかけて来ました。
「おゝい、あいつをつかまへてくれ。つかまへてくれ。通行税をはらはないでにげたんだ。通行券なしでとほつたんだ。」
 鼠はかう言つて、ボウトのそばを流れてゐる、木の片《きれ》やわらくづにかせいをたのみました。
 さうかうしてる間に、流れはいよ/\急になつて来ました。ボウトは目がまはるほど早く走りました。と、やがて向うに外の明るみが見え出しました。一本足の兵たいは、
「おや、うまいぞ。もうあかるいところへ出たぞ。」と思ふとたんに、ごう/\/\と、耳がつぶれるほどの大きなひゞきがつたはつて来ました。それは、どぶがもうぢきおしまひになつて、下の大きなほりわりの中へ、泥水《どろみづ》がどうと落ちこむ音でした。
 そこへ来ると、水は大きな滝《たき》になつて、まつさかさまに落ちこんでゐました。兵たいのボウトは、あつといふ間にその滝のま上へ来て、泥水のしぶきと一しよに、どぶんとほりわりへさかおとしに落ちこみました。兵たいは、びしやりと水をかぶつたと思ひますと、うづ[#「うづ」に
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