くりかへりさうになりました。一本足の兵たいはびつくりして、ぶる/\ふるへてゐました。しかし兵たいですから、がまんして、こはいなぞといふことは顔色にも出さないで、ちやんと鉄砲をかついで、一つところをにらみつけてゐました。
 そのうちに、ボウトは、急に地面の下のトンネルの中へかけこみました。そこはまるで箱の中にはいつたやうにまつ暗でした。ボウトはその暗がりの中を、浪にもまれてどん/\走つていきました。
「おや/\、一たいどこへもつていかれるんだらう」と、一本足の兵たいはびく/\しながら乗つてゐました。
「これもみんなあの黒鬼がさせたことだ。ほんとにあいつはひどい奴《やつ》だ。あの踊《をどり》の女の人と二人で乗つてゐるのなら、この暗がりがこの二倍暗くても平気なんだけれど。おつと、あぶない。おゝ、もう少しで引つくりかへるところだつた。」
 一本足の兵たいは青くなつてちゞこまつてゐました。すると、ふいにその地の底のどぶ[#「どぶ」に傍点]の中に住んでゐるどぶ鼠《ねずみ》が、
「おい、兵たいまて。」と、どなりました。
「こら/\通行券を見せろ。おいこら、通行券を見せろつてば。」
 しかし一本足の兵
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