或日彼は、アンティフォンという男に向って、真鍮《しんちゅう》はどこから出るのが一番いいかとたずねました。すると、アンティフォンは、
「それはハーモディヤスとアリストゲイトンの鋳像のが一ばん上等です。」と答えました。ディオニシアスは愕《おどろ》いて、忽《たちま》ちその男を殺させてしまいました。ハーモディヤスとアリストゲイトンの二人は、希臘《ギリシヤ》のアゼンの町の勇士で、そこの暴君のピシストラツスという人の子供らを切り殺した人たちです。この二人の像がアゼンに立っていました。アンティフォンは大胆にもそれを引き合いに出して、ディオニシアスにあてつけを言ったのでした。
また或とき、ディオニシアスは、友人のドモクレスという人が、たった一日でもいいから、ディオニシアスのような身分になって見たいと言って羨《うらや》んだということを聞き出しました。それですぐにそのドモクレスを呼んで、さまざまの珍らしいきれいな花や、香料や、音楽をそなえた、それはそれは、立派なお部屋にとおし、出来るかぎりのおいしいお料理や、価のたかい葡萄酒を出して、力いっぱい御馳走《ごちそう》をしました。
ドモクレスは大喜びをしま
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