の中を、人に分らないように、そっと下から掘り開《あ》けて、その中へ秘密の部屋をこしらえました。そしてそこへ、牢屋から罪人の話し声がつたわって来るような仕かけをさせて、いつもそこへ這入《はい》ってじいっと罪人たちの言ってることを立ち聞きしていました。
それから、自分の寝室へは、だれも近づいて来られないように、ぐるりへ大きな溝《みぞ》を掘りめぐらし、それへ吊橋《つりばし》をかけて、それを自分の手で上げたり下《おろ》したりしてその部屋へ出這入《ではい》りしました。
或《ある》とき彼は、自分の顔を剃《そ》る理髪人が、
「おれはあの暴君の喉《のど》へ毎朝|髪剃《かみそ》りをあてるのだぞ。」と言って、人に威張ったという話をきき、すっかり気味をわるくしてその理髪人を死刑にしてしまいました。そして、それからというものは、もう理髪人をかかえないで、自分の娘たちに顔を剃らせました。しかし後には、自分の子が髪剃《かみそり》を持ってあたるのさえも不安心でならなくなりました。それでとうとう鬚《ひげ》を剃るのをやめて、その代りに、栗の殻《から》を真赤に焼かせて、それで以て、娘たちに鬚を焼かせ焼かせしました。
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