ースはそのカーセイジ人たちと、いつもひどい仲たがいをしていました。ディオニシアスは遂《つい》にシラキュース人を率いて、それらのアフリカ人と大戦をしました。そして手ひどく打ち負《まか》してしまいました。
 そんなわけで、ディオニシアスはシラキュース中で第一ばんの幅利きになりました。それでだんだんにほかの議政官たちを押しのけて、町中のことは自分一人で勝手に切り廻すようになりました。
 ディオニシアスはずいぶんわがままな惨酷《ざんこく》な男でした。市民たちは彼のいろいろな乱暴から、ディオニシアスを蛇《へび》のように憎み出しました。しかし、市民もほかの議政官も、彼の暴威に怖《おそ》れて、だれ一人面と向って反抗することが出来ませんでした。
 ディオニシアスには、市民たちが、すべて自分に対してどんな考えを持っているかということが十分分っていました。ですから、しじゅう、ちょっとも油断をしませんでした。いつだれが、どんな手だてをめぐらして、自分を殺すかも分らないのです。ディオニシアスはそのために、最後にはもうどんな人をでも疑わないではおかないようになりました。
 彼は牢屋《ろうや》の後にある、大きな岩
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