した。しかし、そのうちにふと顔を上げて見ますと、自分の頭の真上には、鋭く尖《とが》った大きな刀が、一本の馬の尾の毛筋で真っ逆さに釣り下げられていたので、びっくりして青くなりました。これはディオニシアスが、おれの境遇は丁度この通りだということを見せてやろうというので、わざわざ仕組んだのでした。
ディオニシアスは、こんな乱暴な人でしたけれど、それと一しょに、一方には大層学問があり、色々の学者や詩人たちを、いつも側《そば》に集めていました。そして自分でもどんどん詩を作りました。
或ときディオニシアスは、フィロセヌスという学者が、自分の作った詩をけなしていると聞いて、大層|怒《おこ》って、すぐにつかまえて牢屋へ入れました。
そのうちにディオニシアスは、また一つ詩をつくりました。そして自分では、こんな立派な詩はちょっとだれにも作れまいと大得意になって、早速フィロセヌスを牢屋からよび出して見せつけました。フィロセヌスがその詩を読んでしまいますと、ディオニシアスは、どうだ、それでもまだ悪いというか、と言わぬばかりに、相手の顔を見下しました。
するとフィロセヌスは、何にも言わずに、くるりと獄卒
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