そこへくぎが出つぱつて来たと見えて、足の先がいたくてたまらなくなりました。それで或金細工師の店のまへにたちどまつて、その片方の靴をぬいで、中をのぞいて見ました。
 そのときその店先には、王さまが、おしのびで、一人のおともをつれて、金の指輪をなほさせに来てゐました。金細工師は、その指輪を左手の人さし指の先にかけて、なほすところを見てゐました。するとどうしたはずみか、指をぴよいと動かしたひようしに、指輪がぽんとどこかへとんでしまひました。
 指輪は、ちようどイドリスがのぞきこんでゐる靴の中へ、ひよこりとはいつたのですが、金細工師は、それとは気がつかないので、びつくりして、店中をさがしまはりました。
 イドリスは、ほゝう、これはいゝものがとんで来た。ほう、すばらしい宝石がはまつてゐると、にこ/\して、あたりを見まはしました。さいはひ、だれもかんづかないので、そのまゝ、指輪のはいつた靴をはいて、大急ぎで、じぶんの家《うち》へ引きかへしました。
 王さまには、それが何ものにもかへられない、だいじな指輪だつたので、たちまちおほさわぎになりました。王さまはおこつてどなりつけます。みんなは血眼になつて
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