へ出かけて、おまゐりの人が来るたんびに、口の中でおいのりをしてゐればいゝのです。さうすれば、女の人なぞは、きつとお金をくれます。これならあんたにも出来るでせう。」と、おかみさんは言ひました。
イドリスはいちんち考へこんでゐましたが、あくる朝になると、しぶ/\お墓場へ出ていきました。
いつて、おかみさんが言つたとほりにして見ますと、なるほど、お墓まゐりに来た女の人たちが少しづゝお金をくれていきます。イドリスは、これなら、わしにはもつて来いの仕事だと、ほゝ笑んで、それからは、まいにち出て来ては、もぐ/\とお祈りを上げるまねをしてゐました。
人々は、イドリスの、あごをうづめた長いひげや、たえず一しんにいのつてゐるすがたを見て、これは、とても信仰ぶかい、えらい人にちがひないと話し合ひました。しまひには、うはさに尾ひれがついて、あの人は、どんなことでもしつてゐるえらい賢者で、人の秘密でもすぐに見ぬいて言ひあてる、とてもふしぎな人だと、じぶんがためされたやうに言ひふらすものさへ出て来ました。
或とき、イドリスは、いつものやうに墓場へ出かけるとちう、町の中をとぼ/\歩いてゐますと靴《くつ》の
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