ちがつたと思ふにさうゐない、それで、王さまが湯あみをしてゐられるところへかけこんで、いきなり王さまのおひげでもつかんで表まで引きずり出し、もうこれから、わしをよびつけないやうにちかはせるのが一とうだ。
イドリスはかう思ひつくなり、そのまゝはだかでとび出しました。そして、さつきの浴場へかけつけて、家来をつきとばして、王さまのはいつてゐられる浴室へをどりこみ、王さまの口ひげを引ッつかんで、はだかのまゝを、むりやりに庭へ引きずり出しました。
と思ふとたんに、古ぼけて、こはれかけてゐたその浴場の建物が、ふいに、どゞゞん、がら/\がらとくづれおちて、中にゐたものは、あつといふ間もなく一人ものこらず死んでしまひました。イドリスは、そのとッさに、気ちがひになるよりも、もつといゝことを思ひつきました。
「ごめん下さい、王さま。ぐづ/\してゐると、お命があぶないので、私もこのとほり、着物も着ないでとんでまゐりましたのです。私は家《うち》へかへつて湯をあびてゐました。すると私の魔術の手鏡が大声をあげてよぶではありませんか。私が何の秘密でもさぐり出し、さきのことまで見ぬくのはじつはみんな、その小さな手鏡
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