くずを、かきまわしたり、ならしたりして、病犬のそばへ一しょに寝ころびました。肉屋たちは、じっとすべてを見ていました。
「おい、もうかえろう。暗くなった。ほんとに感心なものだね。われわれ人間の中にも、あれほど情《なさけ》ぶかい、いきとどいたやつはちょっといないぜ。毎日朝からおれんところではたらいて、夕方になると肉をもって来てあの犬に食わしてるんだ。見上げたものじゃないか。」と肉屋は、しみじみこう言いました。
「まったくです。だが、だんな、あの犬は、ものが食べたいよりも、のどがかわいてるのじゃないでしょうか。水がのみたくても、あれじゃさがしに歩けないでしょうから。」と店のものが言いました。
「ふん、なァるほど。そいつァよく言った。どこかに水は目《め》っからないかな。あ、そこの、へんなちっぽけな家には、だれか住んでるよ。」と肉屋は、空地《あきち》の向うの家《うち》の戸口へいって、
「もしもしちょっと。どなたかいらっしゃいませんか。」と言って、戸をたたきました。すると、中から、うすぎたない女が戸をあけました。肉屋は今の病犬のことを話して、かわいそうですから水をのましてやりたいのですが、と言いま
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