すと、女は、小さなあきかん[#「かん」に傍点]へ水を入れてもって来てくれました。肉屋がそれを病犬の口もとへおきますと、犬はすぐにくび[#「くび」に傍点]をのばして、ぺちゃぺちゃと、一気に半分ばかりのみほしました。そして、さもうれしそうに、くびをふりふりしました。もう一つの犬も口をつけてぴちゃぴちゃのみました。病犬は水を飲んだために、少しは元気がついたように見えました。肉屋は、骨と皮とばかりの、そのからだをなでてやり、
「じゃァ、よくおやすみ。あすまた見に来てやるからな。おお/\、かわいそうに。――おまいもあしたまたおいで。」と、もう一つの犬をもなでていきました。
二
あくる朝、肉屋がいつもの時間に店をあけますと、犬はもうちゃんと来てまっていて、くんくん言いながら尾をふります。肉屋は町|中《じゅう》の人々や、買いものに来たお客たちに一々その犬の話をして聞かせました。すると、だれもかれも、
「へえ。」と感心して、犬を見入ったり、くびをなでたりしていきます。犬はやはり夕方まで店の番をつづけました。肉屋はきょうは肉の分量を少しおおくしてやりました。犬はあいかわらずそれをくわ
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