。一ぺんでいっちまやがった。」と、肉屋は寝がけに一人ごとを言いました。
ところが、あくる朝、店のものが戸をあけますと、犬は、もうとくから外へ来てまちうけていたように、ついと店へはいって、うれしそうに尾をふって肉屋のひざにとびつきました。
「よし/\/\。分ったよ/\。」と肉屋は犬の両前足をにぎって、外のたたきの方へつれていきました。犬はそれからまた一日中、店先にいて、一生けんめいに番をしました。肉屋は夕方になると頭をなでて、きのうのとおりに、大きな肉のきれをやりました。ところが犬は、やはりそれを食べないで、口にくわえたまま、またどこかへいってしまいました。そしてあくる朝はまたちゃんと出て来て、店の番をしました。
とうとう一週間たちましたが、犬は毎日同じように、もらった肉を食べないでもっていきます。肉屋は、一たいああして肉をくわえてどこへもっていくのだろう、一日中おれのところにおりながら、どうして夜はきまって、ほかのところで寝るのだろうと、店のものたちと話し合いました。
「おいおい、きょうもまた食わないでもってったよ。一つあとをつけてって見よう。来な。」と、肉屋は或日《あるひ》店のも
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