屋の店先で番をしました。あたりの犬たちが出て来て、店の中へもぐりこもうとでもしますと、やせ犬はうゝうときば[#「きば」に傍点]をむいておいまくり、うろんくさい乞食《こじき》が店先に立つと、わんわんほえておいのけてしまいます。それはなかなか気がきいたものです。とおりに何かへんな物音がすると、すぐにとんでいって、じいっと見きわめをつけ何でもないとわかればのそのそかえって、店先にすわっているという調子です。
日がはいると、肉屋はくちぶえをならしてよび入れました。そして、やさしく背中をたたいたあとで、大きな肉のきれをなげてやりました。ところが犬はそれをたべないで、口にくわえて外《そと》へ出てしまいました。そして、どんどん走って、きのうのとおりに、町かどの向うへかき消えてしまいました。
「何だ。」と肉屋は、すっぽかされたような気がしました。しかし、あんなにおれになついて、一日中《いちんちじゅう》番をしていたくらいだから、夜になったらまたかえって来るかも知れないと思いながら、それとはなしにまっていましたが、夜おそくなっても、犬はそれなりとうとうかえって来ませんでした。
「やっぱりのら犬はのら犬だ
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