うは極上等《ごくじょうとう》の肉をどっさりつるして、お客をまっていました。すると、そこへ、きのうの犬がまたのこりと出て来て、同じように、たたきの上にすわったまま、じろじろと肉のきれを見上げています。
「ほう、また来たな。」と肉屋は言いました。
「来い来い。はいって来い。」と、チュッチュッと舌をならしますと、犬はこわごわ店の中へはいって来ました。
「ほら、ここまで来い。どら。」と肉屋はこごんで、かるく犬ののど[#「のど」に傍点]の下をもち上げながら、
「へえ、かわいい目つきをしてるね、おまいは。毛並《けなみ》もよくちぢれていて上等だ。ちょっと歯を見せろ。歯なみもなかなかりっぱだ。おまいはおれの店の番人になるか。え? 今《いま》んとこはまったくやせ犬の見本みたいだが、二週間もたてばむくむくこえていい犬になる。おい、おれんとこにもいい犬がいたんだよ。そいつがにげ出して殺されたんだ。おまいは、かわりに、おれんとこの子になるか。なる? おお、よしよし。」
肉屋が右手でくびのところをだくようにしますと、犬は、言われたことがわかったように、肉屋の左手の甲をぺろぺろなめました。犬はそのまま夕方まで肉
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