さっと後足《あとあし》で立ち上って、それをも上手にうけとり、がつがつと二どばかりかんでのみこみました。
「へえ、こいつはまるでかるわざ師だ。どうだい、牛一ぴきのこらずくうまでかるわざをやるつもりかい? ほら、来た。よ、もう一つ。ほうら。よ、ほら。」と、肉屋はあとから/\と何どとなく切ってはなげました。犬は、そのたんびに、ぴょいぴょいと上手にとって、ぱくぱく食べてしまいます。
「おまいは、おれの店の肉をみんなくっていく気だな? さあ、もうこれでおしまいだ。そのかわり少々かたいぞ。」と、肉屋は最後に、出来るだけわるいところをどっさり切ってなげつけました。しかし、犬はもうそのしまいの一きれだけは食べようともしずに、しばらくそれをじろじろ見つめています。
「何《なん》だ。何を考えてるんだい。」と肉屋は思いました。そのうちに、犬はふと、その肉をくわえるなり、どんどん、町角《まちかど》の方へかけさってしまいました。
 そのあくる日は、からりと晴れたいいお天気でした。きのうの雨できれいにあらわれた往来にはもくもくと黄色い日かげがさしています。人々はあいかわらず急ぎ足で仕事に出ていきます。肉屋は、きょ
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