た。しかし、すゞちやんは、片手をかためてしやぶりながら、ちがつた方を向いたきり、いくらをしへても、ちつともぽつぽを見ようとはしませんでした。ぽつぽは、
「まあ、まだ/\お小さいんですね。いつになつたら、すゞちやんが、ぽつぽやとおつしやるでせうね。」と、さも、まちどほしさうにかう言ひました。お母さまは、
「ほんとにいつのことでせうね。」と言ひながら、お乳の時間が来たので、すゞ子をおひざにとりました。
「なに、ぢきですよ。今にすゞちやんが一人で、ぽつぽのところへ来るやうになりますよ。」
ちようどいらしつてゐたお祖母《ばあ》さまは、かうおつしやりながら、お乳をいたゞいてゐるすゞちやんの、黒い髪の毛をおなでになりました。
「あゝ、ぽつぽに、いゝものを上げてよ。」と、お母さまは、ふと思ひ出したやうに、帯の間から、小さな赤いお手帳を出してぽつぽにわたしました。
お父さまとお母さまとは、いつもすゞちやんが早く大きくなつてくれることばかりまつてゐました。ぽつぽも、そのことばかり言つてまつてゐました。
その十一月に、ぽつぽは、また、すゞちやんや、みんなと一しよに、ちがつた町の方へ遠く引つこしました
前へ
次へ
全13ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング