ほよろこびでかう言ひました。
 でも、まだ小ちやなすゞちやんは、まぶしさうに目《めんめ》をつぶつて、おぎァ/\といふきりで、ぽつぽを見ようともしませんでした。すゞちやんは、たとへそのとき目《めんめ》をあけても、まだ、ぽつぽどころか、お父さまもお母さまも、なんにも見えなかつたのでした。だれでも小さなときは、目《めんめ》があつても見えないし、お手《てて》があつても、かたくちゞめて、ひつこめてゐるだけです。ちようど、足《あんよ》があつても、大きくなるまではあるけないのとおんなじです。
 そのうちに、だん/\と暑い八月が来ました。海はぎら/\と、ブリキを張つたやうにまぶしく光つて来ました。すゞちやんは、昼でも、小さなおかや[#「かや」に傍点]の中にねてゐました。
 お母さまは、お部屋の鏡だんすのふちから、ねてゐるすゞちやんの目《めんめ》のま上へ横に麻糸をわたして、こちらの柱のくぎへくゝりつけました。そして、赤いちりめんのひも[#「ひも」に傍点]の両はしに、小さな銀の鈴をつけて、それをその糸へつるしました。
 すゞちやんは、目《めんめ》がさめて、かやをどけてもらふと、黒い、きれいな目《めんめ》を
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