音も聞えませんでした。
暗い海の中には、星のやうなあかりがたつた一つ、ちかり/\と消えたりとぼつたりしました。それは、昼に赤く見えてゐた、あの浮標《うき》の上にとぼるあかりでした。
ぽつぽは、そんな晩には、さびしさうに、夜でも、
「ぽッぽゥ、ぽッぽゥ。」となきながら、
「すゞ子ちやんはまだおうまれにならないのですか。いつでせう、いつでせう。」と聞きました。
二
そのうちに、だん/\と五月が来ました。海の空もはれ/″\とまつ青《さを》に光つて来ました。
お母さまは、ネルの着ものに、青いこうもりをさして、千代《ちよ》をつれて、そこいらへ買ひものにいきなぞしました。
往来には、もういつの間にか、つばめが、海の向うから来て、すい/\とかけちがつてゐました。電信の針金にもどつさりとまつてゐました。
お父さまは、すゞちやんはいつ生れるのでせうねと、よく、小石川のお祖母《ばあ》ちやまとも話し/\しました。
お家《うち》のちかくには、高井《たかゐ》さんのおばあさまといふ、それは/\よいおばあちやまがいらつしやいました。そのおばあちやまが、とき/″\おみやをもつていらしつて、
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