いおだいどころで、そこからはお部屋はちようど二階のやうになつて、つき出てゐました。
 そのお部屋のぢき目のまへは砂地でした。そして、そのすぐさきが海でした。ぽつぽはガラス戸の中から、どんよりした青黒い海を、びつくりして見てゐました。まつ正面の、ずつと向《むか》うの方には、小さな赤い浮標《うき》がかすかに見えてゐました。
 その向うを、黄色いマストをした、黒い蒸汽船が、長い烟《けむり》をはいて、横向きにとほつていきました。二人のぽつぽは、
「おや/\、あんな大きな船が来た。おゝ早い/\。ぽッぽゥ、ぽッぽゥ。」とおほさわぎをしました。
 お母さまはこのお部屋へおこたをこしらへて、小さなすゞちやんが生まれてくるのをまつてゐました。そして千代と二人ですゞちやんの赤いおべゝをぬひました。
 暗い冬はそれからまだながくつゞきました。昼のうちは、おもてのじく/\した往来を、お馬や荷車やいろ/\の人がとほりました。それから、お向ひのうどんやで、機械をまはすのが、ごと/\ごと/\と聞えました。
 しかし夜になると、あたりはすつかり穴の中のやうにひつそりとなつて、たゞ、海がぴた/\と鳴るよりほかには、何の
前へ 次へ
全13ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング