て、足を引きずるようにして、のッそり/\歩いていました。
「もしもし、おまえさんはどこまでいくのです。」と、王子はその男に話しかけました。
「私《わたくし》は、仕合せというものをさがしに世界中を歩いているのでございます。」と、そのふとった男がこたえました。
「一たいあなたの商ばいは何です。」と王子は聞きました。
「私にはこれという商ばいはございません。ただ人の出来ないことがたった一つ出来るだけでございます。」
「では、その人に出来ないことというのはどんなことです。」
「なに、たいしたことではございません。私はぶくぶくという名前で、いつでも勝手なときに、ひとりでにからだがゴムの袋のようにぶくぶくふくれます。まず一聯隊《いちれんたい》ぐらいの兵たいなら、すっかり腹の中へはいるくらいふくれます。」
 ふとった男はこう言って、にたにた笑いながら、いきなりぷうぷうふくれ出して、またたく間《ま》に往来一ぱいにつかえるくらいの、大きな大きな大男になって見せました。王子はびっくりして、
「ほほう、これはちょうほうな男だ。どうです、きょうから私のお供になってくれませんか。私もちょうど、お前さんと同じよう
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