ある町が見え出しました。王子は、
「どうだ、兵たいはもうひきかえしたか。ちょっと見てくれ。」と、火の目小僧に言いました。火の目小僧はまた後《あと》をふりかえって、
「おや、またじきあすこに砂烟《すなけむり》が見えます。これはたいへんだ。」とあわてました。すると、ぶくぶくが、
「じゃァみなさんはかまわずおにげ下さい。私がここにのこって、ちゃんとしますから。」と、王子たちをさきににがしました。

       八

 ぶくぶくはそのあとへ一人で立ちはだかったまま、ぶく/\ぶく/\と、見る見るうちに大きな大きな大山のようにふくれ上りました。そしてその大きな口をぱくりとあいて、
「さあ来い。」と言いながら、ゆうゆうとまちかまえていました。兵たいたちは、
「うわあ、うわあ。」と、ときの声を上げて、死にものぐるいでかけつけて来ました。みんなは、もうこうなれば、たとい火の中をくぐっても王女さまを取りかえして見せる、もし相手が王女をわたさないと言うなら、すぐに町をせめかこんで、町中のものを一人も残さず斬《き》り殺してやろうと、こう腹をきめているのでした。
 間もなく兵たいたちは、ぶくぶくの口のまん前ま
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