のに一言おたずね申したいと思います」と、彼は言った。「その証人は近ごろどこの精神病院から抜け出して来たのですか」
「ハーカー君」と、検屍官は重《おも》おもしく、しかもおだやかに言った。「あなたは近ごろどこの精神病院を抜け出して来たのですか」
ハーカーは烈火のごとくになったが、しかしなんにも言わなかった。もちろん、本気で訊《き》くつもりでもないので、七人の陪審官はそのままに列をなして、小屋の外へ出て行ってしまった。検屍官とハーカーと、死人とがあとに残された。
「あなたは私を侮辱するのですか」と、ハーカーは言った。「私はもう勝手に帰ります」
「よろしい」
ハーカーは行こうとして、戸の掛け金に手をかけながら、また立ちどまった。彼が職業上の習慣は、自己の威厳を保つという心持ちよりも強かったのである。彼は振り返って言った。
「あなたが持っている書物は、モルガンの日記だと思います。あなたはそれに多大の興味を有していられるようで、わたしが証言を陳述している間にも読んでいられました。わたしにもちょっと見せていただけないでしょうか。おそらく世間の人びともそれを知りたいと思うでしょうから……」
「いや
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