すと、咽喉《いんこう》がどうなっているかということが露《あら》われた。陪審官のある者は好奇心にかられて、それをよく見定めようとして起《た》ちかかったのもあったが、彼らはたちまちに顔をそむけてしまった。証人のハーカーは窓をあけに行って、わずらわしげに悩みながら窓台に倚《よ》りかかっていた。死人の頸《くび》にハンカチーフを置いて、検屍官は部屋の隅へ行った。彼はそこに積んである着物のきれはしをいちいちに取り上げて検査すると、それはずたずたに引き裂かれて、乾いた血のために固くなっていた。陪審官はそれに興味を持たないらしく、近寄って綿密に検査しようともしなかった。彼らは先刻すでにそれを見ているからである。彼らにとって新しいのは、ハーカーの証言だけであった。
「皆さん」と、検屍官は言った。「わたくしの考えるところでは、最早《もはや》ほかに証拠はあるまいと思われます。あなたがたの職責はすでに証明した通りであるから、この上に質問するようなことがなければ、外へ出てこの評決をお考えください」
 陪審長が起ちあがった。粗末な服を着た、六十ぐらいの、髯《ひげ》の生えた背丈《せい》の高い男であった。
「検屍官ど
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