を発せるならんと想像せるなり。しかもわが走り着く前に、彼は倒れて動かずなりぬ。すべての物音は鎮まりぬ。しかもこれらの出来事なくとも、われを恐れしむることありき。
 われは今や再びかの不可解の運動を見たり。野生の燕麦は風なきに乱れ騒ぎて、眼にみえざる動揺の一線は俯伏《うつぶ》しに倒れている人を越えて、踏み荒らされたる現場より森のはずれへ、しずかに真っ直ぐにすすみゆくなり。それが森へと行き着くを見おくり果てて、さらにわが同伴者に眼を移せば――彼はすでに死せり。

       三

 検屍官はわが席を離れて、死人のそばに立った。彼は敷布《シーツ》のふちを把《と》って引きあげると、死人の全身はあらわれた。死体はすべて赤裸で、蝋燭のひかりのもとに粘土色に黄いろく見えた。しかも明らかに打撲傷による出血と認められる青黒い大きい汚点《しみ》が幾カ所も残っていた。胸とその周囲は棍棒で殴打されたように見られた。ほかに怖ろしい引っ掻き疵《きず》もあって、糸のごとく、または切れ屑のごとくに裂かれていた。
 検屍官は更にテーブルのはしへ廻って、死体の頤《あご》から頭の上にかかっている絹のハンカチーフを取りはず
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