角度にまでのけぞりて、その長き髪はかき乱され、その全身は右へ左へ、前へうしろへ、激しく揺られつつあるなり。その右の腕は高く挙げられたれど、わが眼にはその手先はなきように見えたり。左の腕はまったく見えざりき。わが記憶によれば、この時われはその身体の一部を認めたるのみにて、他の部分はさながら暈《ぼか》されたるように見えしと言うのほかなかりき。やがてその位置の移動によりて、すべての姿は再び我が眼に入れり。
かく言えばとて、それらはわずかに数秒時間の出来事に過ぎず。そのあいだにもモルガンはおのれよりも優《すぐ》れたる重量と力量とに圧倒されんとする、決死の力者《りきしゃ》のごとき姿勢を保ちつつありき。しかも、彼のほかには何物をも認めず、彼の姿もまた折りおりには定かならざることありき。彼の叫びと呪いの声は絶えず聞こえたれど、その声は人とも獣《けもの》とも分かぬ一種の兇暴|獰悪《ねいあく》の唸り声に圧せられんとしつつあるなり。
われは暫《しばら》くなんの思案もなかりしが、やがてわが銃をなげ捨てて、わが友の応援に馳《は》せむかいぬ。われはただ漠然と、彼はおそらく逆上せるか、あるいは痙攣《けいれん》
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