ェ、又これ等と前置詞、副詞とを組合せて數千の動詞の働きをさせることは既に述べた通りであるが、この爲に Basic は極めて慣用的な英語になつてゐる。これに就いて筆者は曾て或る知名の先輩から親しく聞いた事で、非常に面白く思つたことがある。それはさる有名な經濟學者が滯英中英語に堪能なる或る日本紳士が英人と話してゐるのを側で聞いてゐたが、後に述懷して、あの人達は get, put, have, do や on, in, at などを盛んに使つてゐるが、實に流暢に話が進んで行く、と驚嘆して語つた、といふことである。故に英語の活用の眞の知識を養はんとするならば、どうしても如上のアングロ・サクソン語系の基本動詞の活用に習熟しておくことが極めて必要である。さうでないと難しいことは解るが、卑近のことは、通じないといふ矛盾が屡※[#二の字点、1−2−22]生ずることがある。故に英語學習の初期に於いてこれ等の基本動詞の用法を徹底的に教へ込むことが、英語研究の全體的見地からみて、結局は有效ではなからうか。教師として極めて卓越した才能をもつてゐた小泉八雲もその Out of the East[#「Out of the East」は斜体] の一篇「九州學生」の中で、日本の高等學校の生徒は、英語の單純な文體に慣れてゐない。小さい言葉よりも大きい言葉を擇び、平易な短い文章よりも長い複雜な文章を書く一般の傾向がある。恐らく之は譯讀に比較的難しい書物を使つてゐるせゐでもあらう。簡單な語句を用ゐる所謂英語の慣用的の言ひ表はし方は日本の學生には仲々困難のやうである。そして之は結局東西兩民族の心理的相違に基づくものである。自分は此の傾向を矯正せんが爲に先ず時々單文で、しかも一綴りの字で面白い物語などを書いて見せたり、又一方その題の性質上簡單に書かねばならぬやうな、例へば「學校へ初めて行つた日」といふ作文を書かせて可成り成功したことがあつた。といふ意味のことを言つてゐる。會話、作文の教授に於いて參考になることゝ思ふ。
Basic の進んだ段階に於いて250の熟語、又更に進んだ段階に於いて讀書用のもう250の熟語が規定せられてをり、これによつてスミス(L.P. Smith)も指摘してゐるやうに、多くの動詞の使用を節約し得るのであるが、これ等の熟語の習得は學習者にとつて困難ではなからうか、との懸念が Basic 組織をよく理解せざる人々によつて抱かれるやうである。そしてそれ等の人々は Basic の必要とする慣用句を覺える代りに寧ろ200なり300なりの新語を覺えた方が學習には樂であり、より效果的ではなからうか、と主張するのである。併し此の問題を諸方面よりよく考察して見ると、その主張は必ずしも正しいとは言はれない。即ち Basic の「作用詞」と「方向詞」の用法は、結局は英語の習得のあらゆる目的に必要なものであり、又後に與へられる稍※[#二の字点、1−2−22]進んだ用法も新語と同樣に少くとも如何なる英語を讀んだり、話したりするにも必要なものである。これと同時に「作用詞」や「方向詞」の基本的用法に就いての知識を一層確實に築き上げる上に役立つものである。然るに新語は一見して如何に簡單で容易なやうに思はれても、學習者にとつては、それに附隨する發音、綴字、不規則な語形の變化、用法等教師の普通に氣の付かないやうな癖を持つものである。しかも日常普通に用ゐられる語の場合に於いて殊にさうである。(例へば、動詞の bear の諸種の用法の如き)。然るに Basic は一貫した組織を成すものであるから、その學習の途中に於いて徒らに他の語を教へることは、却つてその組織を亂し、Basic 語彙の働きを邪魔することになる。又他の語をいくら殖しても、850語を十分に覺えてしまふ迄は、實用上の效果は期待出來ないであらう。
Basic の慣用句は總て既によく理解せられた「作用詞」、「方向詞」等の基本的な語毎の意味からの自然な發展といふ點に重きを置いたのであつて、これは意味の擴張の場合と同樣である。故に餘りイディオマチックなものは之を排除したのである。而して Basic を組織する勞力の大部分は此等の慣用句の明細な目録の作成に費されたのであつて、其の結果は The Basic Words[#「The Basic Words」は斜体] に收められてゐる。そして此等の慣用句を構成する各語は各々明らかな意味を持つてゐるのであるから、慣用句の表はす意味も從つて容易に理解せられることになる。即ち、その表現が具體的で生々としてゐて、ラテン系の語の二つ或はそれ以上の觀念を一語に壓縮してゐるものよりも一層感覺的に學習者の腦裡に印せられるといふ利便をさへ持つてゐるのである。一般に我々教師は、唯英語の此の點が彼の點より
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