ベーシック英語
高田力

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蓋《ふた》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字1、1−13−21]

*、1、2、3:注釈記号
 (底本では、直前の文字の右横に、ルビのように付く)
(例) The Meaning of Meaning[#「The Meaning of Meaning」は斜体]*
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[#底本ではここにオグデンによるベーシック・ワードのリストが掲げてあるが、オグデンの著作権は現在保護期間中なので、省略する。]
[#改丁]

          はしがき

 此の小稿は Basic English の基礎理論と組織との概要及び英語教育に於けるその價値を出來るだけ平明に解説しようと試みたものである。Basic は決して850語の單なる list に止まるものではないのである。動的であつて有機的なそれ自體一つの纒つた組織を成し、その運用によつて日常の用を辨じ得る仕組になつてゐるのである。然も Basic は總て英語の傳統に從つて考案され、英語の特異性が十分に利用されたものであるから、その研究は英語研究の全體的見地から考へて見て、決して無駄なことではないと思はれる。
 我國に於いては、Basic の組織をよく理解してゐる人が比較的尠いやうに思はれる。幸に讀者諸氏が本稿によつて、Basic の如何なるものであるかを理解せられて、更にその關係文獻を渉獵するの勞を惜まず、檢討を加へられて Basic の組織を全體として眺め、その長所を採つて英語教育に應用せられるならば、筆者の幸福のみに止まらないであらうと思ふ。
   昭和十六年三月
[#地から2字上げ]高田力
[#改丁]

          目次

はしがき
※[#ローマ数字1、1−13−21]. ベーシック英語
※[#ローマ数字2、1−13−22]. 考案の起源と展開
※[#ローマ数字3、1−13−23]. 語彙制限の諸原則
 1. 動詞の排除
 2. 贅語の排除
 3. 意味の擴張と特殊化
 4. 複合語
 5. −er, −ing, −ed の語尾
 6. 慣用句
※[#ローマ数字4、1−13−24]. ベーシック選集
 1. 簡單なる動作
 2. 複雜なる動作
 3. その他の注意
※[#ローマ数字5、1−13−25]. ベーシックと英語教育
※[#ローマ数字6、1−13−26]. 文例
[#改丁]

          ※[#ローマ数字1、1−13−21]. ベーシック英語

 Basic English(基本英語)は如何なる英語であるか簡單に言ふならば、元來多くの點で最も簡易化の可能性に富む英語の持つ用辭上の特異性を利用して、複雜なる思想をも、人間の生活意識に最も必要なる要素的な語彙のみで言ひ表はし得るやうに、大英語を合理的に壓縮整理して得た、それ自體有機的な一つの纒つた組織を成す簡易化された小英語とも言ふべきものである。而して、英語が世界に於いて通用範圍が最も大きいと言ふ點から、極めて短期間に習得しうる國際補助語とする意圖を以て、英國ケムブリッヂの言語心理學者オグデン(C.K. Ogden, 1889− ――)氏によつて、多年苦心研究の結果案出されたものである。
 Basic English の組織の主體を成すものは850語であつて、それを分類すれば、「作用詞」(operators)と名づける動詞16語、助動詞 may(might), will(would)(及び「作用詞」中の be, do, have も助動詞として用ゐる)、前置詞、接續詞、冠詞、代名詞、副詞等100語、一般的な事物の名(名詞)が400語、繪に描き得る物の名が200語、及び性質を表はす語(形容詞)が150語(其の中、50語は good に對して bad;clean に對して dirty の如く反對の意味を表はすもの)となつてゐる。此等の語を運用する文法は普通の英語と同じで、名詞の複數には 's' を附け、300の名詞及び少數の形容詞(普通の英語で動詞としても用ゐられるもの)の語尾に '−er' ('−or'),'−ing', 及び '−ed' を附けて派生語(例へば、support から supporter 支持(扶養)する人、味方、賛成者、supporting 支持(扶養)して、支持(扶養)すること、supported 支持(扶養)されて)を作り、副詞は形容詞に '−ly' を附け、比較は '−er', '−est' の語尾を用ゐると共に 'more', 'most' で示す。所有を示すには '−'s' 又は 'of' を用ゐ、形容
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