どかうした深処にあつて、幽に、力強く流るるものだ。この本流のまことの生命力を思はねばならない。
私は隆太郎の首をしつかと後ろから抱いた。
彩雲閣へ戻ると、小坊主は直ぐと名古屋へ帰ると言ひ出した。名古屋の伯母さんは、昨夜この子の母に長距離の電話をかけてゐた。「病気でもされると申訳がありませんしね。それにお菊さんもまだ一度も里帰りしないのですから丁度いい折ですし、呼びませうか。」といふことであつた。それに従兄弟たちは大勢だし、汽車や電車の玩具はあるし、都会は壮麗だし、何か早く帰りたいらしかつた。
「ぢやあ、さうするか。たのむよ。」と私は甥の八高生にその子を託した。
空は薄明となる。パッと園内のカンツリーホテルに電燈がつく。白、白、白、給仕とテーブル。
かへろかへろと、どこまでかへる。
赤い燈《ひ》のつく三丁さきまでかへる。
かへろが啼くからかァへろ。
竝木の鈴懸の間を、夏の遊蝶花の咲き盛つた円形花壇と緑の芝生に添つて、たどたどと帰つてゆく幼年紳士の歌声がきこえる。
「おうい。」
私は二階の欄干へ出て、両手をあげる。
「ほうい。」
向うでもこちらを見て両手をあげる。
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